「なるせがいてくれるから大丈夫だろうけど。
……流兄になんか絡まれたりしても無視な」
「……からまれる?」
「スキンシップとか。
仲良い相手に、なるみ気許しすぎだから」
俺とか、と。衣沙は言うけれど。
……まさか衣沙は、わたしが親しいって理由だけで頬へのキスやらハグやら許していると思ってるんだろうか。
たしかに、なるせに同じことされたって「かわいい弟だな」としか思わないけど。
たとえ衣那くんや流くんが相手でも、ものによっては抵抗がある。
「……だいじょうぶ」
少なくとも、キスマークにはその差が出る。
……衣沙だから許してるものだって、たくさんあるのに。
「姉ちゃん。
やっぱりワイングラスにしようかって、流兄が」
「え? あ、うん!
ごめんね任せっきりで……!」
人の多い週末の百貨店。
彼と触れ合ったままだった手を引いて、先に待ってくれていたふたりの元に歩み寄る。
「相変わらずお前ら仲良いなあ」
わたしたちの手を見た流くんに、そう言われて。
思わず小さく笑みを返して、「うん」とうなずいた。
「わたしと衣沙は、ずっと仲良しよ」
きゅっと。
ゆるく繋がれた手の力が、わずかに強められたような気がした。



