「っ、いい……! 遠慮しとく……!」
「へえ。……残念」
あわてて前を向き直して、熱い頬を手でぱたぱたと仰ぐ。
そのタイミングで「じゃあ俺にする?」なんて流くんが聞いてくるものだから、鼓動が落ち着かない。
この場をさんざん掻き回したなるせは助けてもくれないし……!
いや、そもそも話題を出したのはわたしだけど。
「誰とも付き合いません……!」
言い切って、これ以上反応は見せまいと流れる景色に視線を向ける。
いまどき中学生でも、ここまで恋愛沙汰にドギマギしないような気がする。
でも衣沙の『……別にいいけど』って返事が頭から離れてくれなくて。
もしわたしが頷いてたら、付き合えたのかな、なんて思ってしまう。
わたしが欲しいのは、彼女っていう地位じゃなくて。
衣沙に愛されたいっていう、わがまま。
「……あ、電話、」
スマホが震えたことに気づいて、バッグを探る。
ごそごそと取り出せば、液晶に表示されている名前は『勢川ニナ』。
……あ、そうだ。
この間ファミレスに行った時、連絡先交換したんだった。まさか掛かってくると思わなかったけど。
「気にしなくていーから、出な」
「うん。ありがと」
お礼を言って、画面を一度撫でてからスマホを耳に当てる。
……わざわざ電話を掛けてくる用事って、一体なんだろう。



