……ただ怯えてただけ。

なるみにもし、「衣沙のことなんてなんとも思ってない」って言われたら、今度こそ立ち直れない。



だから気休めみたいに相手にしてる女の子たちとの遊びをやめられないのはそのせいで。

慰め合おうと、満月ちゃんのことが好きという嘘までついたくせに、俺はなるみに慰められる気なんて端からなかった。



あの呪いみたいな言葉に縛り付けられて、

それでも諦められなかったなるみへの気持ち。



どうしようもなく好きだから。

……だから、本当は、あきらめたかった。



「っ、違……! 違うってば衣沙!」



絡めた指先を引き止めて、俺を呼ぶなるみ。

あの日の発言を気にしていることをなるみに告げたら、なるみは途端に焦り出した。



……べつに焦んなくてもいいのに。




「変な噂立てないでって言ったのは、衣沙に悪い噂ばっかり流れるようになったから、これ以上衣沙に傷ついて欲しくなかったの……!

それに衣沙、あのあと教室からいなくなったでしょ」



「……やってらんねえもん」



「っ、あのあと……!

女の子たちが勘違いしたのか衣沙のこと好き勝手に悪く言い始めて、わたしめちゃくちゃキレたの!」



「は……?」



「だからっ、『衣沙のこと悪く言わないでよ』って怒ったの……!

その場にいなかったけど、あまりにも言い返しすぎて泣かせちゃったから、てっきり知ってるものだと……」



あの日俺はその発言を聞いたあと、今日のなるみみたいに学校を抜け出した。

校内の女の子たちは俺の悪い噂ばっかり知ってるから、どうせなら違う子を相手にしようと思って。



誘ったのは偶然見かけた大学生の女の子で。

その子と、なるみには言えないようなことをしていた俺にとって、その後なんてどうでもよかった。