「なるみちゃんって。

……衣沙くんのこと、どう思ってるの?」



「え……?」



「だって衣沙くん、こないだあんなことしたんだよ?

よく怖がらずに一緒にいられるよね、って思っちゃう」



俺に聞こえるようにわざとらしく放たれた言葉。

それになるみが曖昧な笑みを返しているのが、そのときの俺は、どうしても許せなかった。



俺があんなに強引な手段に出たのは、そもそも一方的に俺に好意を抱いて、その幼なじみであるなるみに嫌がらせしてた女側に原因があるのに。

なるみは否定することもなく。



「別に衣沙のことなんとも思ってないから。

……変な噂、立てたりしないでね?」



放たれたその一言に、俺の中で何かが崩れていった。

なるみのこと大事にしてたのは俺だけだったんだって、なるみはなんとも思ってないんだって、そう思ったら一気に冷めた。




冷めたくせになるみを好きな気持ちだけは消えなくて。

それが気に食わなくて当てつけみたいに女の子を相手にするようになったけど、今なら分かる。



あれは、たぶん本心じゃなかった。

だってなるみはそう言いながらも俺から離れずにいてくれた。……いまだって、そばにいてくれてる。



同じ高校に進むと決めたのは、俺じゃなくてなるみの方だった。

だって努力していたなるみなら、もっと頭のいいところに行けたはずだから。



なるみとは対照的に頑張ることをやめた俺は、特に考えることもなく高校を決めたけど。

なるみが「一緒にそこに行く」と言ってくれたのは、紛れもなく俺のため。



わかってたけど何も聞けなかった。

踏み込もうとする度、あの発言が脳裏で色づく。



本心じゃないって、わかってるのに。



呪いみたいに俺をあの日に引き戻して。

なるみに素直になれなくなる。……好きだって言えなかったのは、ずっと、そのせいだった。