「……やっぱ忘れてんだな、なるみ」
「え?」
俺は元々ここまでヘタレじゃなかった。
中学に入った頃はそれこそなるみのことだけ大事にしたくて、ずっと燻ってるなるみへの気持ちを大切に守ってきた。
……でも、違う。
この間なるせと兄貴と男メンツだけで夕飯を食べたとき。なるせに指摘されて、封印したかった記憶の蓋を開けた。
「……中1のときさ、」
手を引いてやるのは俺の役目だった。
小さい頃から幾度となくその手を引いてきた。
なるみは幼い頃、今のようにしっかりした女の子じゃなかった。
ひとりで泣いてることも多くて、「大丈夫だよ」って、「いっしょに帰ろう」って、手を何度も差し出してきた。
言ってみれば、今と立場は逆。
でもそうなった理由は、ちゃんとあった。
なるみのトラウマになった、あの事件のあと。
停学明けで荒れてた俺が、はじめて兄貴に本気で叱られた、そのあと。
「なるみちゃん」
なるみは、急に努力するようになった。
何、とか決めたわけじゃなくて、ただ色んなことを努力するようになった。
だから勉強だって頑張ってたし、なるせにすごく優しくなったし、料理だって頑張ってた。
あの件で俺が手酷く泣かせたから、俺への好意は一瞬にして消え去っていったんだろう。
頑張ってるなるみのそばには、いままで嫌がらせしていた側の女の子たちが、たくさん集まった。
そのときに俺が思ったのは、女なんて感情ひとつでしか動かないんだな、ってこと。
冷めた目で見てたと思う。
……だから、俺は。