無言で伸ばした指先を彼の頬に触れさせれば、さおは不思議そうな顔でわたしを見る。
涼し気な瞳が、衣沙とかぶって見えた。
「さおも、みんなに混ざってこればいいのに」
「……俺はそこまで純粋じゃないですよ」
「さおが楽しかったら、それで十分だと思うわよ」
感情に制限なんてものは必要ない。
それこそ衣沙だって自由を極めてるから、わたしにここを任せっきりで女の子と遊び歩いているわけだし。
「っていうか、聞いてよさお。
あのね今日クラス替えだったんだけど、はじめて同じクラスになって話したことのなかった女の子からすでに『姐さん』呼びされてるの」
みんなが学校でもそうやって呼ぶから、完全に浸透してしまっている。
解せないと眉間を寄せれば、彼は「撤回はむずかしそうですよね」と困ったように笑った。
「明日入学式ですけど、俺らも姐さんって呼んでるので……
そのうち1年の間でもそう呼ばれると思いますけど」
「誰よほんとにこんな呼び名つけたの……」
くるくるとパスタをフォークに巻き付けながら、グチグチと零すわたし。
そんなわたしに、彼はきょとんとして。
「誰、って……衣沙さんですよね?」
「え?」
「姐さん、って呼び名付けたの……
たしか衣沙さんだったと思いますけど……?」
は……?と。
動きも思考も停止させたわたしは、おそらくとてもマヌケな顔をしていたに違いない。



