脳内で考えていたことを、いつみが口に出す。
「お世話になっています」と彼にもぺこりと会釈すれば、彼は「こちらこそ」と素敵な笑みを見せてくれた。そして。
「それでは私は失礼します」
どうやら彼はここに残らないようで。
そう言った夕帆先輩のお父様に、声をかけるいくみさん。
「おじさん、わたしも近いうちに挨拶行くね」
「ああ、待ってるよ」
くすりと笑った彼は、「ごゆっくりどうぞ」とわたしに会釈してから、部屋を出ていく。
それを見送ってすぐに「さて」と話題を切り出したのはお母様で。
怖そうな印象はすっかり消えていたけれど、
やっぱり無意識に背筋が伸びた。
「お料理をお願いしてあるんだけど、まだすこし時間がかかるの。
だから先に、大事なお話を済ませちゃいましょうか。じゃなきゃ南々瀬ちゃんが食事を楽しめないでしょうし」
「……はい。 ですがその前に、」
ご両親の瞳を順番にしっかり見つめて。
それから、座布団の上に軽く指先をつけた。
「バイオテクノロジー計画の件で、珠王グループには多大なご迷惑をおかけし、申し訳ありませんでした。
……そして、わたしや両親へのお力添え、本当にありがとうございました」
指先につきそうなくらい深く、頭を下げる。
珠王の実験棟を爆発させるなんて、いくら小規模とはいえ被害が出たはず。
そしてわたしや両親に手を貸したことで、少なからず政界を敵に回したのは事実だ。
本来ならもっと早く謝罪とお礼を告げるべきだった。
その件も添えて謝罪すれば、ふたりはどことなく困ったように顔を見合わせて。



