だからネックレスは俺の大切なものだった。

ナナが唯一残してくれた、形のあるもの。



だからアイドルになった。

すこしでもはやくデビューすることで、ナナの目に、耳に、一刻も早く届くように。



……どうせ、ナナは知らないだろうけどさ。

俺の世界はずっとナナだけで回ってるんだよ。



「夕陽」



兄貴と比べて、唯一目指したものの理由さえ失って。

それでも俺が頑張れたのは、ナナのおかげなんだよ。



「……なに?」



よく似た容姿。

よく似た瞳が俺をまっすぐに見据える。




「……なんで生徒会役員になった?」



外が明るいから、電気は点いてない。

シックな色合いの家具でまとめられているせいで、部屋の中がモノクロと化したような気分だった。……そんなわけ、ないのに。



「ナナに指名されたからだよ」



「……言い方を変える。

王学は確かに指名制を取り入れているけど、生徒会役員は理由さえハッキリしていれば断れないわけじゃない」



リストがあるから、代わりはいくらでもいる。

だけどナナが指名したのは、俺と呉羽で。



「なんで、ねえ……」



そこに深い意味がなかったとしても、それでよかった。

ただひとつ言えることは、後味の悪さを知っていたからだ。