奪ってやろうって思ったし、事務所のレッスンだって本格的にサボらなくなった。

何より、ナナが俺の話を聞いてくれているうちに、演じている時間が楽しかったことに気づかされて、夢だって本物になった。



好きって言えなかったけど。

利用して良いなんて最低なこと言ったけど。



ナナが俺の彼女になってくれた時は、本当に嬉しくて。

そのときを知る呉羽に言わせれば、「俺が知ってる夕陽の人生で一番浮かれてたね」らしい。



付き合った方法はひどく強引。

でも、彼女になったナナにはできるだけ優しくした。



抱きしめるときの加減もキスも慎重だった。

嫌がられないかなって、不安ばっかり募って。



「ナナ、」



それでもナナが、応えてくれたから。

だから、途方もなく、好きだった。




何のためらいもなく。

ナナのこと一生好きだって、思ってた。



「夕陽。これ、夕陽にプレゼント」



「……俺誕生日5月なんだけど」



「知ってるわよ。

付き合って3ヶ月の記念。……あと、最近すごくがんばってるから、その努力をほめてる」



「……またそうやって子ども扱いする」



唐突に渡されたネックレス。

今ならわかる。それに込められた意味は、おそらく「ごめん」の一言だった。



留学することが決まったから。

その理由を言えないから、せめてもの、ナナの気持ちだったんだと思う。