いや、違う。
もう一度と言わず、何度だって、見たくて。
「お待たせ、ナナちゃん」
「おつかれさま」
活字嫌いな俺にその話の内容を教えてって、すり寄れば彼女はいつも読んだ本の内容を教えてくれた。
何度も何度も。飽きそうなくらい。
でもナナの声で物語を聞くのは、心地よくて。
「明日は来る?」
いつの間にか全部好きになってたなんて恥ずいこと、絶対言えないけど。
つなぎとめるのに、俺なりに、必死だったと思う。
「明日は来るわよ。
でも、テスト前だからともだちと勉強しに」
「……そっか」
物語を聞けない日は残念だけど、会えるだけで良かった。
ナナに会ったらなんとなく気分が良くなって、サボりがちだったレッスンも、すこしずつ再開した。
俺はいつもナナの話を聞くけど。
ナナは物語の代わりに、"俺"の話を聞いてくれるから。
だから、頑張ってることを証明したくて努力した。
彼氏はいないって、ナナが言ってたから。
でもそのあと、一緒に勉強してる"ともだち"を見て、どう見たってただのともだちじゃないことはわかった。
「彼氏じゃないけど両想いの人がいる」。
直接言われた時は、正直、落ち込んだけど。
でもね、ナナ。……ナナに出会った瞬間から、俺の努力する理由のすべてが、ナナになったから。



