「じゃあ、気をつけてな」
「うん。いってきます」
午前8時。
準備を終えたわたしは、いつみ先輩よりもはやくにマンションを出る。
というのも、マンションは彼の大学に近いから。
彼はもう少し遅く出ても、1限目の講義には余裕で間に合う。わたしはバスに乗って王学まで行かなきゃいけないから、よっぽどのことがない限り先に家を出るのはわたしだ。
玄関までわざわざ見送ってくれる彼。
ちゅっと軽いキスをくれた彼は、「いってらっしゃい」と甘やかな声色で告げる。
それにもう一度いってきますを返して、なんだか名残惜しくなりながらマンションを出た。
街に出れば、ひらひらと桜の舞い散る季節。
始業式と入学式は、終わったけれど。
1年生は4月後半、親睦を深めるための日帰り旅行がある。あまりにも人数が多いから、学科ごとに行ける日も場所も別という徹底ぶり。
話し合いで目的地は決まったようだから、その日帰り旅行の仕事の一部も生徒会に任されていて。
特進科はキャンプで野外炊事、芸能科は劇団にお邪魔しての研修、になったらしい。
夕陽は、団体行動するのが嫌いみたいだけど。
彼自身もともと役者を目指しているからか、劇団研修については案外乗り気だった。
すでに芸能界デビューしてファンも多い彼は、芸能科でも色々と浮いてしまっているけれど。
『Fate7』は、なんだかんだ夕陽にとって居心地の良い場所になっているみたいだ。
ときどき、ミナさんがわたしに連絡をくれる。
『Fate7』のみんなで一緒にいるときに、学校の話なんかもするようで。
お互いに夕陽の知らないところで彼の近況を報告し合う、という、保護者のようなやり取りをしてる。
……まあ、夕陽にとってミナさんはお兄ちゃんみたいな存在で、尚且つグループの保護者みたいなものだろうけど。
「おはようございます……!」
ぼんやりしていれば、あっという間に最寄りのバス停。
あたりには王学の生徒がほとんどで、バスから降りた途端に、「おはようございます」の声をいろんな場所から掛けられた。



