「お前、忘れてないか?」



「何を、ですか?」



「そういう特殊な人間、近くにいただろ」



言えば、ぱちぱちとまばたきする南々瀬。

それから、おそるおそる放たれたのは「女装……?」という一言で。



「本名は新見リナト。

……俺らが1年の時に生徒会長やってた男で、コイツは女装が趣味。夕帆が世話になってたんだよ」



世話になっていた理由は言わずもがな。

初心者がたやすく完璧な女装できるわけもなく、そのあたりのことで夕帆が世話になっていた。



正真正銘、俺らの先輩にあたる男だ。

……女装が趣味というところにすでに滲み出ているだろうが、クセの強い男。




「C棟のリビングにある歴代の生徒会役員、見たら載ってるぞ。

俺に彼女ができたって勝手に夕帆が言いやがって、散々紹介しろってうるせえんだよ」



「なら、ほんとに何もないの……?」



「……疑ってたのか」



これでもかなり愛情表現はしてやってる方なのに。

まあ不安にさせたのは確かだな、となだめるように南々瀬を抱き寄せた。



あとでリナに嫌がらせの鬼電してやる。

……絶対南々瀬には会わせてやらねえ。



「で、でも。

先輩、この連絡があった日から急に何もしなくなったから……わたし、余計に不安で」



「……何もしなくなった?」