◆ Sideいつみ
「ん、」
「……落ち着いたか?」
「ごめん、なさい」
腕の中で小さくなっている南々瀬が、涙の滲んだ瞳で謝罪を口にする。
そのせいで言いようの無い罪悪感に見舞われて、やわらかな黒髪をそっと撫でながらあやした。
ほかの奴らが夕帆の家に引き上げたため、南々瀬が眠っている間にシャワーだけ浴びて寝室に顔を出せば。
すこし情緒不安定になっているようで、目を覚ました南々瀬が泣きついてきた。
「溜め込んでも苦しいだけだからな」
ここ最近、というか、ここ数日。
元々年末に色々あったせいで良くなかった南々瀬の精神状態が、やけに乱れてる。
「ん、だいじょうぶ……」
俺の前でもそもそも泣いたりしなかった南々瀬がこうやって泣くのは稀だってことを、
南々瀬自身がおそらく気づいてない。
「飲み物でも飲むか?
寝れねえなら、眠れるまで付き合ってやるよ」
「明日、いつみ先輩のご両親に会いに行かなきゃいけないし……」
「夜だろ。昼に起きても十分間に合う」
15年間、"人質"なんて思いやりのない言葉で自分を何度も何度も傷つけて。
ようやく解放されても、その自傷癖は治っていない。
……まあ、散々南々瀬に注意されている俺が言えたことでは無いかもしれないが。



