追われているのはむしろいっちゃんの方だ。
跡継ぎとはいえ大学生になったばかりで、まだ成人にもなっていないのに。何もかも背負ってる。
「……ナナがたとえば、
いつみと素直に結婚したとするじゃん」
ソファの上で片膝を立てて、その上に手を組んで顎を乗せている夕陽。
視線を誰とも合わせないのを見て、夕陽も幼いなりに色々考えてるってことはわかる。
「でもナナの両親は、海外に移住するのが時間稼ぎなんでしょ?
なら、結婚した後、ナナの両親はどうすんの」
「それ、たぶん……」
夕さんが、それに対する答えを告げようとして。
黙り込んで、言葉を紡ぐのをやめた。
その可能性なんて、ただひとつ。
良い答えではないことを、わかっているからだ。
「………」
夕さんが黙り込んだことで、誰もが黙ってしまって。
迂闊に口を開くこともできないまま、時計の秒針だけが嫌にうるさい。
ようやくすこしだけ空気が緩んだのは、いっちゃんが部屋にもどってきたときで。
その表情には、あきらかに疲れが見えた。
「南々ちゃん、寝た?」
「ああ。……でも、たぶんそのうちまだ起きるだろうな。
ここ最近、疲れが溜まりやすいのか寝つきが悪いし眠りも浅い。夜中に何度も目を覚ましてるし、ストレスで情緒不安定な日も多いんだよ」
「……大丈夫なの、それ」
「長引くようなら、専門の医者に診てもらう」



