「だから、」



「ちょっとまって、いつみ。

……ななせ、たぶん、いま起きたよ」



何か言い掛けたいっちゃんを、ルアが遮った。

それを聞いていっちゃんが口を噤んだと同時に、すこし離れたところからドアの開く音が聞こえてきて。



「……悪い」



小さくそう言って、席を立ったいっちゃんがリビングを出ていけば。

すぐそこで、何かぼそぼそと話しているのが聞こえてきたけど。



「……はあ」



内容までは、聞こえてこない。

無意識にため息を漏らしてすぐ、足音が遠ざかっていって。いっちゃんがそこにいないってことは、彼女のことを寝かしつけに行ったんだろう。




「あ〜、も……

なんで、南々ちゃんなんだよ……」



日増しに彼女のことを好きな気持ちが消えていってくれるわけじゃない。むしろ比例するように増す。

今日だっていっちゃんに甘えている彼女を見て、いっちゃんに"羨ましい"と思ったのは嘘じゃない。



だけどそれ以上に、彼女に幸せになって欲しいのに。

どうして、当たり前のそれが叶わないんだろう。



そもそも政府って、国民のために機能する機関の筈で。

なのにこうも一方的に、南々ちゃんだけが傷つけられる運命にある。



「あの、さ。

俺はそのあたりの詳しいことよくわからないし、何気なく思ったことなんだけど」



各々の脳内で思惑が廻る中、俺の隣にいる呉羽が声を発した。

生徒会役員になる時、南々ちゃんにあったことを呉羽に話したけど。



そのときと同じように、戸惑うように揺れた瞳。