「そもそもなんで黙ってるんですか?」
自分のできないことを隠すならまだしも、どうしてできることを隠すんだ。
最近は料理できる男性だって多いし、別に恥ずかしがるようなことじゃないと思うんだけど。
夕帆先輩のお部屋にはキッチンに道具が揃っているし。
わたしはてっきり、いくみさんが料理するんだと思っていた。
「……いつみがさっき言っただろ」
見据えていれば、ぽつりと口を開く夕帆先輩。
その表情はどこか浮かない……というよりは、すこし申し訳なさそうに見えた。
「……いくみは料理できねえって」
「ああ、壊滅的に……って」
何がどう壊滅的なのかはわからないけれど。
とにかく彼女が料理するのが苦手だということはわかった。
「そ。……それをいくみが気にしてんだよ。
俺が作れるから別に困らねえけど、女のプライドとして自分の中で納得できないんだろうな」
「………」
……なるほど。だから夕帆先輩は黙ってる、と。
女装している理由を聞いた時も思ったけれど、彼は本当に珠王姉弟に甘い。ふたりのためなら何でもやってしまう。家の関係とは、また別で。
「でも俺に教えてもらうのは嫌なんだと。
……聞けば聞くほどめんどくせえ女だろ?」
そんな言い方をしたって、結局夕帆先輩はいくみさんのことが好きだって、みんなわかってる。
「それでも好きなんですよね?」と、言いそうになったのをこらえて。
「それじゃあ、今度。
一緒に料理しませんかって、わたしから聞いてみますね」



