でも嫌いじゃないんだって、知ってるから。
だからわたしは、夕陽にしようって。
そう決めたこと、わざわざ本人には伝えないけれど。
彼なら、わかってくれているはずだから。
「そうだけど……」
何か言いたげな彼の髪を撫でれば、夕陽は口を開きかけて。
結局何も言わずに閉じると、順番に則って隣に座っているわたしの手札からカードを1枚引いた。
大人びた言動を見せたり、こうやって子どもっぽくなったり。
夕陽は誰よりも"普通"の生き方をしているんだろうな、と時々思う。
それを羨ましい、と、思ってしまうのは。
「夕陽、呉羽」
わたしは、そんなに素直にはなれないからだ。
……贅沢な望みであることは、理解しているけれど。
「……なに?」
「どうしたの? 南々先輩」
素直になってはいけない生活を強いられていた。
"人質"として生きていたあの頃はいっそ諦めてしまうほど自由に憧れていたはずなのに。
いざ自由になった今は、ただ戸惑うばかりで。
「わたしが一方的に指名したのに……
生徒会役員になってくれて、ありがとう」
だけどほんのすこしだけ。
踏み出す勇気なら、わたしにだってある。



