「あー……さいあく」



「ふふっ、人気アイドルは大変ね」



「ナナ他人事だと思ってるでしょ」



プライベートビーチで、ホテルの撮影に来ていた報道陣にがっつり顔がバレて囲まれていた夕陽。

「事務所通してください」の言葉に引き下がらない彼らに、近づいていった夕帆先輩。夕陽とよく似た、その綺麗な顔で何を言うのかと思えば。



「弟がいつもお世話になってます。

……今日は"家族"でプライベートの時間を過ごしてるので、撮影はお控え頂けませんか?」



誰が見たってふたりが兄弟であることは分かる。

報道陣も、さすがに家族と言われてたじろいだようで、すんなりと夕陽から離れていった。



……最悪わたしがレコード会社の社長権限でどうにか引き離しても良かったけど、変な噂が立っても困るし、それよりも穏やかな解決法。

けれど夕陽はプライベートを邪魔されたことも、それを夕帆先輩に助けてもらったことにも納得がいかないらしい。




「みんな夕陽のことを大事に思ってるのよ」



手を伸ばして、そっとやわらかい髪を撫でる。

夕飯のバイキングは大人数と少人数用で分けられていて、6人用の丸テーブルを2台でそれぞれ別れることになった。



わたしの右隣にいつみ、その隣に莉央、ルア、呉羽、夕陽。

ちなみに配置を決めた夕帆先輩いわく"1番穏やかに食事ができる並び"だそうで、わたしの左隣が夕陽でもいつみは特に何も言わなかった。



……というか、電話があったとかで出ていっちゃったし。

夕陽に「先取りに行こうか?」と声を掛けたら、じっとわたしを見つめてから素直に席を立った。



「明日向こう着いたら、速攻仕事だし。

あいつらやっぱり俺がアイドルなの忘れてるよね?」



「ふふっ。……でも一緒に来てくれるのね」



「……ナナがいるからね」