結婚が決まった時から言われていたけど、実際に入籍した実感を得たのは最近で。
珠王さん、と呼ばれるたびに、ああ結婚したんだなと思うようになった。
「知ってると思うけど、
いつみは南々瀬ちゃんのことが大好きだから」
「……大事にしてもらってます、本当に」
「おかげでこんなにかわいい妹ができて、わたしは満足よ」
「わたしも一人っ子なので、お姉ちゃんってすごく憧れてて」
街が動き出す前の、朝の空気を感じながら。
空港に向かう車の中、いくみさんが「お姉ちゃんだって!うれしい!」なんて言いながら笑ってくれる。
歳は離れているし、お互いに性格も違うけれど。
美人で仕事ができてしっかり者のいくみさんは、わたしにとってすごく自慢のお姉ちゃんだ。……いつみに言ったら怪訝な顔をされそうだけど。
「お昼ご飯はそれぞれで自由に、って書いてたわよね。
向こうで沖縄料理屋さんとか良いのあればいいんだけど」
「あ、わたしいくつかリサーチしてきましたよ。
タクシーで行ける距離なので、よかったら行きませんか?」
「相変わらず仕事ができるわね、南々瀬ちゃん」
「いくみさんこそ、旅行用の化粧品一式そろえてくださったじゃないですか。
わたしそういうのすごく疎いので助かります」
「日焼けは女の敵だからね!」
絶えず話し込んで、気づけば1時間ほどで空港に到着。
車を停めて諸々手続きをしようと建物内に入り、最後に来たのはいつみとハワイから帰国した時だったことを思い出す。
わたしのことを、いつみが救ってくれたから。
……今はもう、あの時みたいな押しつぶされそうな感情は必要ない。



