「どうせこのあとヤるだけだし?」



最低なことを口走ったと気づいたのは、誰よりも強がりなその瞳が潤んでいることを知ってからだった。

俺よりも年上で意地っ張りで強がりだけど、それでもいくみは"女の子"で。



「っ、夕帆のばか……!!」



「、」



リビングに置きっぱなしだった荷物を掴んだいくみが、そのまま部屋を飛び出していく。

それにハッとしたのに、その場から動けなかった。



……こんな言い方してしまったけど、俺らは"恋人"だし。

その行為に対しても、愛情がなんてことは有り得ない。それどころか好きでたまらないとさえ思う。



なのに、傷つけてしまった。

しばらくその事実に呆然として、置いてあったスマホから慣れた手順で連絡先を呼び出して耳に当てる。




『……はい』



「いくみのこと頼んだわ」



『お前な、』



どうせ、いくみが向かった先は愛しい弟の家だ。

それに加えて最近はかわいい妹もできたから、ここを飛び出した後に行くところなんてそこくらいだろう。実際すぐにいつみが電話に出たことを考えれば、いくみのそばには南々瀬ちゃんがいるはずだ。



『付き合う前はあんなに大事にしてたじゃねえか』



「はっ……

まるで俺が、付き合ってからは釣った魚に餌やってねえみたいじゃん」



『釣ったのがお前なのかすら怪しいけどな』