「つーか、南々瀬。

あいつ戻ってこねーけど、いいのか?」



「ん? ああ、戻ってきてないわね」



さっきいつみのスマホに着信があって、彼は一度自室に入っていった。

が、未だに出てこないのを莉央に指摘されて、思わず廊下の方を見やる。



「電話が長引いてるんじゃないですか?」



「もう、もどってくるよ」



ふわり。

ルアが笑ってそう言った途端に、ガチャッと扉が開いた音がした。……よく気づいたわね。



「おかえりなさい」と言えば、ただいまを返してくれる。

誰からの電話だったの?と尋ねたわたしに、「ん?」なんて言いながらソファに腰掛けた彼は。




「お前の母親」



「え、え……!? なんで……!?

お母さんいつみのこと好きすぎでしょ……!」



娘には電話してこないくせに……!

前に「時差の計算が面倒だから」なんて言ってたけど、お母さんたちが今いるシドニーと日本の時差はサマータイムでたった2時間だから……!



「新居どうするんだって連絡だったからな。

……あと、いいこと聞いた」



「……いいこと?」



「ああ。いいこと」



……な、んだろう。嫌な予感がする。

何がいいことなんだと、思わずじっと彼を見つめれば。いつみはふっと笑って、わたしの頰をつっと指で撫でた後。