だっていつみは意地悪をするけど、わたしを気遣って強引にはしない。

なのに、今日は先に宣言された通り、やけに荒々しさが目立つ。



「ッ、ねえ、待って、」



「……待てねえよ」



キスマークだって日頃からつけるときにはたくさんつけてきたりするけど、やっぱりわたしに遠慮してくれる。

無数に残されるソレが、痺れて焼けるように熱い。



「南々瀬、」



それでもわたしを呼ぶ声だけはひどく優しくて。

愛情と熱情の間で、葛藤しているみたいに。



漆黒の瞳が淡く揺らめく。

切なげにゆがめられた表情に、つま先から溶け落ちてしまいそうなほど、愛おしさで息苦しかった。




きつく絡んだ指に嵌められた指輪が、朧な月明かりを拾って煌めきを放つ。

余すところなく求めてくる彼についていくので精一杯だけれど、それでも。もっと、と彼を求める気持ちだけは、わたしの中で尽きなくて。



「……全然足りねえな」



彼の独白にすら、全身が疼く。

目が合えばくちびるが触れ合って、キスのせいで、さらに深く堕ちていくのがわかる。



溶かされて、愛されて、形すら失くす。

隅から隅まで蕩けて、汗ばむ時間すら愛おしく感じてしまう。



窓の外が白み始めて、徐々に朝を知らせる。

お互いにそれをわかっているはずなのに、終止符を打てなくて。ただただ、そこにあるお互いの体温を分かち合うばかりで。



「悪い、さすがに無理させすぎた。

……だいじょうぶか?南々瀬」



愛を囁き合うのも忘れた頃。

思考がぼんやりとして、いつみの声がすこしだけ遠くに聞こえる。