「、」



音もなくくちびるを重ねられて、部屋の中はシンと静まり返る。

くちびるが離れた瞬間に吐き出した自分の吐息が予想以上に熱っぽくて、くらくらした。



「昨日、結局あいつら遅くまでいただろ、」



「……そう、ね」



いくみさんが車で来ていたから、みんなを送ってくれることになって。

そのおかげで少し遅くまでみんながいたから、ふたりきりになったのは遅かった。……だから昨日はお風呂に入って、添い寝しただけだ。



「……なら。

俺の言いたいこと、わかってるだろ?」



耳元で囁かれて、かっと全身が熱くなったのがわかる。

っ、どう考えてもその聞き方はずるい……!




「い、つみ、」



メガネ姿を見るのがひさしぶりなせいで、余計に鼓動が落ち着かない。

ばくばくとうるさい心臓をおさえるようにぎゅっと自分の胸元を握るわたしをまっすぐ見つめた彼は、やっぱり余裕げなまま。



「冗談だよ」



やわらかな声色でそう言って、身を離した。

だけど彼が飲み終えたコーヒーのマグカップをさげるためにキッチンに入っていっても、わたしは身動きできなくて。



彼が歯を磨くために洗面所に足を踏み入れてからようやく、広げていた書類を片付ける。

パソコンもデータを保存して電源を落とし、ぱたんと閉じた。



「なんだ、仕事終わらせたのか?」



洗面所から出てきた彼に問われて、「うん」と返事する。

パソコンと書類は邪魔にならない場所に置いてから、マグカップを片付けて、わたしも歯を磨いてしまう。……そして。