「それで、早速仕事してるわけか」



「仕事って言っても、前にもらった書類の補足的な資料を読み込んでるだけよ。

あ、ごめんねわたしのコーヒーまで淹れてもらって」



書類ばかり眺めているわたしのそばに、ことっとマグカップを置いてくれた彼にお礼を言う。

左手をマグカップに伸ばしたところで薬指にはめられた指輪が視界に入って、「そういえば」といつみを見上げた。



「ご両親に、なんて言われたの?」



さっき一緒に夕飯を食べたけど、わたしがいろんなことを考えていたせいで、その話をしていない。

そのあとすぐにわたしはお風呂に入っていたし、入れ違いでいつみが入っていたから、すっかり聞くタイミングを逃していた。



「ん? "結婚するだろ?"って。

予定通り3月に籍を入れて構わないらしい」



「……あっさりだったのね」




実は反対されるんじゃないかって思ってたけど。

なんてどこか他人事に考えるわたしに、「近いうちに両家で顔合わせだな」と言ういつみ。……そうか、それもあるのか。



「8プロに、生徒会に、学業に……

頑張るのは良いけど、無理はするなよ?」



「ふふ。楽しいから、平気よ」



いろんなこと、自分で頑張れる。

今までは何もできなかったから。……とはいえ8プロだって、与えてもらった仕事だけれど。



「それもそうだが……、

俺にもちゃんと構えよって、言ってんだよ」



つっと。

頰を撫でられて、顔を上げる。黒縁メガネの奥の瞳とばっちり視線が絡んで、また鼓動が揺れた。



……なんだか、メガネ姿をひさびさに見たような気がする。

いつみの方が起きるのが早いし、一緒に寝るときはすぐにメガネを外しちゃうし。