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「そう。
ふふっ、南々瀬ちゃんならそう言ってくれると思ってたわ」
「すみません、お返事が遅くなってしまって」
ぺこりと頭をさげるわたしに、目の前の彼女はカップを優雅に口元に運んで「いいのよ」と笑う。
相変わらず綺麗な人だ。ルノとルアの、お母様。
「早速だけど今週末平気?
わたしや旦那がいなくても仕事してもらえるように、とりあえず顔合わせだけ済ませておきたいんだけど、」
「はい、大丈夫です」
「それじゃあ今週の日曜日に。
色々大変だと思うけど、よろしくね新社長」
新社長……
正式には来年の4月からだけど、慣れない響きだ。だけど彼らが築き上げたものを、わたしが壊してしまうわけにはいかない。
「頑張りますね」
「あらあら、頑張りすぎなくていいのよ。
ありのままのあなたなら大丈夫だと思って任せてるんだもの。ね?」
「……はい。ありがとうございます」
彼女と顔を合わせたのは、今日で三度目。
だけどわたしの本質を思ってそう言ってくれているのなら、努力しようと思う。
「そうそう、レコード会社の方なんだけど。例の買収が予定より早まったから、『Fate7』の次のシングルは新しい社名を使用することになってるの。
でも社名がまだ決まってないから、南々瀬ちゃんも案を考えておいてね」
「え、あ、はい……わかりました」
渡される書類を受け取りながら、頷く。
……うん、本当に忙しくなりそうだ。



