「何かあった?」



「んーん。……なんにもないよ」



「そう。……あ、昨日調整してくれたのよね?

仕事、大丈夫だった?」



「大丈夫だよ。収録とかじゃなかったし」



そっか、と彼の髪を撫でてあげたら。

いつもより素直に甘えてくるから、やっぱりどうかしたのかと夕陽を見れば。目が合って、足を止める。……そして。



「ナナ、」



わたしの肩に、夕陽が手を置く。

えっと目を見張ったわたしのくちびるに、触れる寸前。




「……、わかってたのに」



「……え?」



ぴたりと動きを止めて、夕陽がぽつりとつぶやく。

すこしでも動けばくちびるが触れそうな距離。夕陽は、音もなく身を遠ざけて、「行こう」とわたしの手を引いた。



「……夕陽」



夕陽がそんな顔をするのはいつだって、わたしのせいだ。

知ってる。別れを告げた時も、彼はまったく同じ顔をしてたから。……傷ついた顔、してたから。



「そういえばリーダーのCM正式に決まったんだってさ。

だからシングル出すんだけど。……いきなり、カップリング曲を俺が作詞することになったんだよね」



「……夕陽が?」