優しい南々瀬ちゃんのことだから、自分が犠牲になることは厭わない。
そして半年前まで人質であった自分のことを思えば、自分が再度人質になろうが、彼女は我慢できる。……ただ、違うことがひとつある。
「っ、く、……」
あの頃はまだ、彼女は「好き」という気持ちを閉じ込めて、離れようとしていた。
……でも。
「っ、いつみ、」
今はもう、通じ合ってる想いを知ってるから。
いつみが自分に対してどれだけの愛情をくれているのかも、自分がどれだけいつみのことを好きなのかも、彼女はちゃんと知ってる。
「会、いた……っ」
だから離れるなんて、無理だった。
あきらめるなんてそんなこと、運命だなんて言葉で片付けられないほどには、不可能だった。
「南々瀬ちゃん」
……さてはあいつ、俺に婚姻届のことを知られたくなくて鍵を渡さなかったな。
そんな細工ができるってことは、それなりに心に余裕があるんだろう。昨日は結構切羽詰まった顔してたけど。
「あいつはいま、
南々瀬ちゃんと柴崎のふたりともを救うために動いてる」
「……、」
「あいつの頼みなんだよ。
……柴崎と南々瀬ちゃんを、保護しといてくれって」
手を伸ばして、そっと彼女の髪を撫でる。
いつみと同じ、綺麗な黒髪。
きっと今この場にいつみがいたら、即座に俺の手を払ってんだろうな、なんて思いながら。
珠王姉弟に内心謝りつつ、彼女を抱き寄せる。



