そこは否定しないけど。

何か言いたいことでもあるのかと茉文を見ると、彼はふわりと笑ってみせる。それが逆に、不気味だった。



「……無意識に、選んだ?」



「なに、」



「好きになったなんて建前でいくらでも言える。

……エリートをあえて狙ったんじゃないの?」



「なに、言ってるの」



頭の中で警鐘が鳴り響いてる。

知らない方がいいって。触れない方がいいって。……そう言われてるのに、わたしは耳を塞げなかった。



知ることも知らぬことも罪だ。

だってどちらにせよ、聞かないふりをするための逃げなんだから。




「たしか記憶は曖昧なんだったね、南々瀬。

……なら覚えてないか、15年前のこと」



「15年、前?」



「南々瀬は"人質"だった」



冷や汗が流れる。

なんで。……なんでこの人が、それを、知って。



「当時、政府はふたつ案を上げていた。

ひとつはバイオを使った兵器案。それともうひとつ、選ばれなかった方の案がある」



「もう、ひとつ……?」



「違法なドラッグ案だよ。

人間を内側から壊すことの出来る、危険なね」