言ってから、後悔した。

だって珠王の跡継ぎだなんて言ってしまったら、調べただけですぐに特定できてしまう。



内心ひやりとしているわたしに。

「ああ、」と小さく漏らした彼は。



「あの珠王グループの息子か。

確か、美形姉弟だって言われてる」



まるで知り合いであるような口調で、そう言い放つ。

……え? もしかして知り合いなの?



「いつみは茉文のこと知らなさそうだったけど、」



あれ、でもわたし彼に茉文の名前は言ってなかったかな、と。

記憶を思い返していたら、「顔は知ってるんじゃない?」と茉文が一言。



……ということは、名前は知らなくても、顔見知りの可能性はあるわけで。

どこで知り合ったんだろうと、彼を見てみれば。




「南々瀬、

僕が製薬会社の社長息子だって忘れてるでしょ?」



「あ、」



「……どうりで反応薄いと思った。

医療現場に薬は必要不可欠だからね。そういう記念のパーティーで、顔は合わせたことあるよ」



向こうは俺の素性までは知らないかもしれないけど、と。

言う茉文に、そういえばわたしと知り合ったのが"あの"セレモニーだったんだから、いつみがそういうイベントに参加していてもおかしくないことに気づく。



同棲してから、いつみは一度もパーティーに参加していない。

だから言われるまで、気づかなかった。



「……にしても。

将来は世界をまたにかける医療グループを継ぐのか。医者になるのもふくめて、随分なエリートだね」



「……まあ、確かにエリートね」