説明してくれるいつみは、少しだけ困っているように見えた。

すべてを自分で担おうとするのは、彼女の長所であり短所だ。時には切り捨てる、ことだって。



「だからそれをすこしでも緩和できるなら、

はやく結婚して楽にしてやれ、って」



「はは、おじさんとおばさんらしいじゃん」



まあ、いつみはそれについてあまり納得していないようだけれど。

南々瀬ちゃんとの結婚が、結婚本来の意味ではなくそのオプションに意味があること、色々と気にしてるんだろう。



それこそ仕方ない話だが、そんな簡単な言葉で片付けてしまいたくないいつみの気持ちもわかる。

だからといって何ができるか、と問われれば、何もできねえんだけど。



ちらりと時計を見やったいつみが、「そろそろ帰る」と小さく口にする。

バッグの中に片付けられたパソコンは、結局一度も開かれることがないまま。



それを見ていたらなんだか言いようのない感情が背筋を這って、それを振るうように「見送ってやろうか?」と笑ったみせた。

だけど見向きもせずに「いい」と答えるいつみ。




……なんだよツレねえな。



「何か分かったら、連絡する」



「んー……」



俺らの間柄で、見送りとかそんなのは無い。

昔っから俺がいつみの家に出入りするのなんてよくあることだし、どっちかがわざわざ見送るような習慣はなかった。



だから先に連絡がある場合は鍵を開けておけばいつみは勝手に入ってくるし、逆も然り。

……南々瀬ちゃんだけは、毎回出迎えてくれるし見送りもしてくれるけど。



「俺も一仕事するかな……」



落とした声は、

ひとりになったリビングに響いて静かに消えた。