まるで分かっているかのようにはっきりと言い切られて、絶句する。
……そりゃまあ、確実に無理だとわかっている相手には、言わないだろうけど。
「ルノとルアが、いますよね……?」
「南々瀬ちゃんも知ってると思うけど、ウチの事業ってかなり広いのよ。
わたしと旦那と、あと旦那の両親と。4人でそれぞれ社長職を掛け持ちしてても、ギリギリなぐらい」
「………」
「ルノとルアと、南々瀬ちゃんのことを考えたら。
どう考えても、南々瀬ちゃんが一番8プロの社長にふさわしいの」
人を見る目があるから、と。
微笑んだ彼女は、赤信号で止まった隙に後部座席に手を伸ばし、バッグの中からA4のクリアファイルを取り出した。
それをわたしに手渡して、ふたたび手をハンドルにもどす。
透明なファイルの上からでも見える書類の一枚目には、『エイトプロダクション独自レコード会社設立計画書』と書かれていて。
「ちょうど、新しくレコード会社を設立するって話が出てるの。
大変なことにね、『Fate7』がCDを出してるレコード会社が赤字スレスレなのよ」
「え……」
「だからウチの方で、買収することになってる。
買収して、8プロのレコード会社を設立する予定なのよ。……その計画を進めてるの」
「………」
「その会社の赤字を補えるのは、あと1年半。
大学生や高校生でも起業してる時代だから、南々瀬ちゃんも進学するなら大学に通いながらぜひこの仕事をしてほしくて」
無理ならいいのよ、と彼女は微笑む。
それからわたしの手にあるファイルに、一瞬だけ視線を落とした。
「当然、はじめてのあなたにすべて任せるなんてことはしないから。
進路の案のひとつとして、考えて欲しいの」



