「わたしもまさか、
こんなに早く結婚することになるとは……」
「ふふ、今ね。いつみ、家の仕事相当頑張ってるの。
南々瀬ちゃんをすこしでも早く養えるようにって、無理やり仕事増やしてたみたいよ」
「え……」
「両親には、それで医者の息子が倒れたら意味がないぞって呆れられてたけど。
……それを知ってるから、両親も反対しなかったんだと思う」
まだ20歳にもなってないのに、と。
彼女はつぶやいて、小さな池にかかる橋の上で、立ち止まった。
「……ねえ、南々瀬ちゃん」
振り返った彼女の表情は、月明かりに照らされているせいでいつも以上に美しい。
無意識に背筋が伸びる感触がここに来た時と同じで、いくみさんも珠王の人なんだな、と頭の片隅で思う。
「南々瀬ちゃんが卒業と同時に結婚するってことは、18歳で結婚するってことでしょう?
まだ18年しか生きてなくて、この先誰とどんな風に出会うかもわからないのに。……それでも、結婚して、絶対に後悔しない?」
いくみさんが"こう"だから、いつみは彼女のことを、本気で避けたりしないんだろう。
重度のブラコンだけれど、根底にあるのは自分を想ってくれる気持ちだと、知っているから。
「そうですね。
……最近じゃ離婚なんかも増えてますし、18で結婚なんて、そのあと"誰か別の人を好きになった場合"笑えませんけど」
「、」
「気持ちが揺らがないなんて、言いきれるほど"絶対"なんてものは存在しません。
……でも、わたしが彼に救われて、彼のことを心の底から大事に思っている事実は変わりませんから」
それでも"絶対"を信じたい、なんて。
恥ずかしいから、いつみには言えそうにない。
「後悔なんて、しません。
その自信がなかったら、はじめからわたしは彼のプロポーズを潔く断ってます」



