手を伸ばして抱きしめ返してあげれば、耳に届くカシャッという音。
発信源に顔を向ければ、スマホを構えたいくみさんが写真を撮ったらしかった。
一瞬恨めしそうな顔をしたいつみは、普段なら間違いなく文句を言っているはずなのに、めずらしくおとなしく黙ったまま。
そんな姉弟のやり取りを眺めたご両親は、ふっと笑みを浮かべて。
「もちろんよ。
いつみはもう南々瀬ちゃんのことしか見えてないんだろうし。でも結婚するからには、ちゃんと養うのよいつみ。仕事と大学両立できるの?」
「できねえなら、プロポーズなんかしねえよ」
いつみのその答えに、満足そうに笑うお母様。
お父様も「わかった」と言って、素直に結婚を認めてくれた。
「愛してる」
ゆっくり離れるタイミングで。
わたしにだけ聞こえるよう囁かれた、愛の言葉。
……どうしたって、好きでしかない。
「それじゃあ、ふたりの結婚を祝して」
その後運ばれてきたお料理は全部美味しくて。
お母様がおっしゃっていた通り、大事な話を済ませただけに、かなり肩の力を抜いて食事できたと思う。
お父様は珠王いつきさん。
お母様は珠王 久美(くみ)さん。
結婚すると義理の両親になるということで、早くも「お義父様」「お義母様」と呼ばせていただくことになったのだけれど。
なんていうか、気恥ずかしくてくすぐったい。
「いいなぁ、結婚。
わたしはまだまだ先だと思うけど」
四季をイメージした和洋折衷のデザートをいただいてから、いくみさんと少し外に出た。
綺麗なお庭を散歩できるようになっているようで、月明かりに照らされた優美な日本庭園はどこか幻想的で。



