「一度目は、彼が卒業する際に。
……時期が未定だったのであくまで将来いつか、という意味だと考えて返事したのですが、」
「今日もう一回、卒業したら入籍しようって言った。
……で、南々瀬がこの場で返事したいって言ってきたから、俺もまだ返事は聞いてない」
「そうなのね。……返事はもう決まってる?」
「はい、決まってます」
進路は好きにしていいと、いつみが言ってくれた。
それでも先に籍を入れてしまいたいのだと。
「わたし……両親が計画を引き受けてまで守ってくれた自分の人生なのに、人質だからって諦めてたことも多くて。
……でも、彼が救ってくれたんです」
頭から離れたいつみの手を、そっと握る。
14年前。……いや、もう年が変わっているから15年前になるのか、あの約束は。
15年前から、変わらないぬくもりと。
増してばかりの優しさと、苦しいくらいの愛おしさ。
「捨てても良いとさえ思ったこともあります。
ですから、捨てようと思った自分の全てで、彼に応えようと思うんです」
こんなにも好きになることは、もう二度とない。
だから。ずっとわたしを想っていてくれた彼を、これからはわたしが愛していきたい。
「わたしに。
……珠王の姓を、いただけませんか」
言い切った途端。
強く抱きしめられて、ちょっと苦しい。
「……いつみ」
スーツのジャケットがシワになってしまう。
でもわたしを強く抱きしめて離さないいつみが、彼らしくなくて。だけどどうしようもなく本心のまま求めてくれているような気がして、愛おしかった。



