番犬男子





お兄ちゃんに夢中で、本来の目的を頭の隅っこにうっかり置いちゃってたよ。


ナイフに裂かれた傷の痛みはすっかり引いてたし。



「ん」


普段は無気力な稜でさえ、消毒を染み込ませたアルコール綿を準備していた。



手慣れてるなあ。


しょっちゅうケンカして、手傷を負っているから?




「総長も千果さんも、これで目を冷やしてください」



幸汰が水で濡らしたタオルを、あたしとお兄ちゃんに渡した。


仕事早っ。

いつの間に用意したの!?



泣き腫らした目元を冷たいタオルで覆っているお兄ちゃんの代わりに、雪乃が切り傷の処置を施してくれた。




あたしは傷の手当てをされつつ、目を冷やしつつ。


できるだけ簡潔に、みんなにあたしとお兄ちゃんの昔話をした。



それでも長くなって。


お兄ちゃんも知らない、“あの日”に提案した条件とアメリカ行きの理由を語った時には、とっくに手当ては終わっていた。