番犬男子





苦しそうで、それでいて愛おしそうなお兄ちゃんに、あたしは笑顔を咲かせた。



「みんな、お兄ちゃんを愛してるよ」



10年間、待っていた。


一番伝えたかった愛を、やっとお兄ちゃんに贈れた、今日この日を。




“あの日”の傷痕は、あたしの背中に、お兄ちゃんの額に、家族全員の心の内側に、一生刻まれ続けるけれど。



どうか、お願い。


あたしも苦しまないから、お兄ちゃんももう苦しまないで。


お兄ちゃんの孤独感と罪悪感を失くして、一緒に幸せになろうよ。



このお願いは、叶えてくれるよね?




「お、れ、っ……俺だって、父さんと母さん、もちろん千果のことも、本気で嫌いになったことなんかねぇよ」



後ろ首に回されていた手で、ぎこちなくあたしの目尻にたまる涙を拭われる。


お兄ちゃんの表情が、ふわり、柔らかくなった。




「俺も、大好きだ」


「愛してるじゃなくて?」


「……あ、愛し、てる」




耳たぶまで赤く染めるお兄ちゃんが可愛くて、でもやっぱりかっこよくて、泣きながら笑って抱きついた。