「“あの日”も今日も、守ってくれてありがとな」
瞳が震えて、下まつ毛に大粒の雫が乗る。
あたしも、伝えたい。
“あの日”に胸にしまった、お兄ちゃんへのメッセージがあるの。
抱きしめている腕が、わずかに和らぐ。
あたしは弾かれたように、お兄ちゃんの胸の中で顔を上にずらした。
お兄ちゃんもあたしを見つめていて、お互いの眼差しが揺らぎ合う。
「ごめん。ごめんね、お兄ちゃん。あたしのせいで、たくさん、たくさん傷つけて」
きっと、お兄ちゃんが味わった不幸には、いつだってあたしの存在が絡んでいた。
何度謝っても、お兄ちゃんから数えきれないくらい大切なものを奪った幼い罪悪感は、消えやしないだろう。
「ずっと、伝えたかった。お兄ちゃんは独りじゃないって」
「……っ」
「あたしもお父さんもお母さんも、お兄ちゃんのことが大好きだよ。……ううん、大好きじゃ足りない」
下まつ毛から頬へ、涙がこぼれた。
爪の跡がくっきり残った両手を、お兄ちゃんの顔横に持っていく。



