番犬男子





透明な涙が、肩に落ちる。


お兄ちゃんは今、どんな表情をしているの?




「千果」


「なあに?」


「記憶を失ってたって気づいて、後悔した。あの時自己満足だとしても伝えればよかった、そうすれば忘れてたとはいえ千果にひどいこと言うこともなかったのに、って」


「……え?」


「お前に怪我させた俺に、こんなこと伝える資格なんかないってわかってる。許されなくてもいい。同じ気持ちじゃなくてもいい。それでもいいから、伝えさせてくれ」




それって。

本当に。


お兄ちゃんは記憶を……?



「忘れてて、ごめん。今まで冷たくして、ごめん。傷を負わせて、ごめん。……俺のせいで、ごめん」



精一杯、首を横に振る。



謝らないで。


お兄ちゃんはなんにも悪くない。