番犬男子





今までと、違う。


もしかして、お兄ちゃんは……。



背中の傷痕を見せて記憶を取り戻す方法だけは、絶対に嫌だった。


そうやって頑なに拒んでいたはずなのに今では、待ち焦がれた瞬間が来たかも、って期待して喜んでる自分がいて、もどかしくなる。



騒がしかった心臓が、急に静かになって止まりかけた。




ゆっくりとお兄ちゃんのほうに顔を振り向かせていく。



その途中で、お兄ちゃんの腕があたしへ伸びて、肩を引き寄せられた。


強引に向かい合わせの状態に椅子が回転させられ、あたしの前頭がお兄ちゃんの胸板に当たる。



「おにいちゃ……?」



困惑しながら声をかければ、首の後ろ側と後頭部に回されたお兄ちゃんの大きな手が、あたしをぎゅっと抱きしめた。



耳元で鼻をすする音がする。



お兄ちゃんはまだ泣いてる。


でも、これじゃあ涙を拭ってあげられないよ。



あたしも、泣きそうだ。