番犬男子





バカ。


何してるの。

何を言ってるの。


キスとか、綺麗だとか、ほんとやめてよ。



幸汰にぶつけてやりたい文句は、思考回路にいっぱい並んであるのに、どうしてだろう。


何も喉を通って出てこない。



目頭が熱くなって、瞳に涙の膜が張る。




だって、なんか、おかしい。



「枷鎖」じゃなく「勲章」として掲げていいんだと、慰めてくれているようで。


お兄ちゃんを守りきれていないあたしを、番犬としても幸汰自身としても、許さないどころか認めてくれたようで。



嬉しい、なんて。

甘く高鳴るあたしの心臓は、たぶんどうかしちゃったみたいだ。




傷痕にキスされて赤らんだ顔に、涙色が帯びていく。


ごちゃまぜになった感情が涙腺を引っ張ったり解きほぐしたりして、もう、わけわかんない。




「――千果」



沈黙していたお兄ちゃんの目が、緩やかに開かれる。


あたしの名前を呼ぶその声音がとても優しくて、即座に返事ができなかった。