あの雪崩は、単なる発端に過ぎなかった。
“あの日”重傷を負ったのが、お兄ちゃんを孤立させた元凶であるあたしじゃなかったら、どうなっていたんだろう。
しょせん、絵空事でしかない。
「あんなに誇らしかったはずなのに、背中が醜くく見えた」
背に否応なく押された烙印は、今よりも子どもだったあたしにとって、汚らしくも後ろめたいものだった。
コレがある限り、たとえあたしとお兄ちゃんが仲直りしたとしても、心の奥では罪と罰から逃れられない気がして、怖い。
そんな皮肉な運命なんか、要らなかった。
いっそ、断ち切ってしまいたい。
あたしとお兄ちゃんは、こんなものがなくたって、兄妹の絆で繋がれる。
現実は、残酷だ。
それでも、あたしは――。
「そんな……っ、そんなこと、ないです!」
「こ、うた?」
反射的に敬語で反応した幸汰に、一拍遅れて、あたしは顔を上げて目を丸くした。



