番犬男子








瞼をきつく閉じたら、また涙が絶え間なくあふれて、お兄ちゃんの頬はもうぐちゃぐちゃだった。


泣かないでほしいのに、涙を拭うのが追いつかなくて、あたしの手もびしょ濡れになる。




徐々に、手を下ろしていった。



あたしの手は、まだこんなにも、ちっぽけで。


お兄ちゃんの憂いを抑えることすら、できない。




あたしは、みんなが背中をあまり直視できないよう、回転椅子を少し回して横を向いた。


俯いて、胸元で拳を作る。



「背中の傷は、昔、お兄ちゃんと雪崩に遭った時に負った傷なの」



見られてしまった以上、きちんと話さなくてはならない。


でも、やはり、抵抗はあった。



何を話したら、どこまで話したら、お兄ちゃんを苦しめてしまうんだろう。




「初めは、この傷が誇らしかった。お兄ちゃんの重荷でしかなかったあたしが、ついにお兄ちゃんを護れたんだって。でも、お兄ちゃんが記憶喪失になって、この傷痕を忌まわしく思うようになった」