条件は、お母さんとお父さんへのものもある。
『お母さんとお父さんは、必ず定期的にお兄ちゃんと連絡を取ること。離れている間に、親としてどう在るべきか、答えを探すこと』
あたしだけアメリカに行き、お父さんとお母さんとお兄ちゃんが3人で生活を始めれば、今度は記憶ではなく心を閉ざしてしまう危険もある。
お父さんとお母さんが、正解のない答えを見つけない限り、お兄ちゃんの寂しさを取り除くことは不可能なのだ。
『この条件を呑んでくれる?』
『ええ。いろいろ考えてくれてありがとうね』
『頼りない親で、ごめんな』
お母さんとお父さんは、むせび泣きながら了承してくれた。
10年後、条件が満たされたら。
お兄ちゃんに会って、家族の愛を贈ろう。
その日までどうか待っててね、お兄ちゃん。
あたしより一足先に退院したお兄ちゃんは、昨年おじいちゃんを亡くし1人で一軒家に住んでいたおばあちゃんに、事情を説明して預けることになった。
条件付きの約束通り、雪崩に巻き込まれて『ごめん……っ』と謝られた“あの日”以降、あたしがお兄ちゃんと会うことはなかった。
そして、3月。
6歳になったあたしは、無事に退院し、お兄ちゃんを1人日本に残して、お母さんとお父さんと共にアメリカへ旅立った。
『またね、お兄ちゃん』
お兄ちゃんと再会できる日を、心から待ち望みながら。
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