『あたしが大きくなって、それでもお兄ちゃんが記憶を取り戻せていなかったら、お兄ちゃんに会いに行く』
『大きくなって、って具体的にはいつ頃なんだ?』
『うーん、そうだな、義務教育を終えて高校生になったら、かな』
10年。
あまりにも長い期間だ。
これは、お兄ちゃんが自力で思い出すかもしれないという望みを託した、無謀とも言える賭けだった。
『全部解決するまで、あたしとお父さんとお母さんは、お兄ちゃんとは別々に暮らすべきだと思う』
以前、アメリカにある、世界有数の教育機関から手紙が届いていた。
あたしの天質を見込んで、才能を伸ばすためにぜひ我が学校へ入学してほしい、という内容だった。
いわゆる推薦状だ。
あの推薦を受けよう。
あたしは、アメリカに行く。
お兄ちゃんと離れ離れになるのは辛いけど、次にお兄ちゃんに会った時、成長したあたしを見せられるように。
お兄ちゃんの妹だと堂々と名乗れるように。



