廊下で通りすがった看護師さんに手術室の場所を尋ねて、手術室前にやってきた。
そこには、落ち着かなくて右往左往している父さんと、手を合わせて祈る母さんがいた。
『父さん、母さん。千果は……?』
俺がかすれた声で問いかけて、父さんと母さんが俺を一瞥した。
2人とも、激怒していた。
悲嘆にも暮れていた。
母さんが俺に近寄り、涙で濡れた手で俺の右頬をビンタした。
いつも生意気な俺を殴るのは父さんの役目だったのに、その日初めて母さんが俺に手を上げた。
『誠一郎!あんた、自分が何をしでかしたかわかってるの!?』
泣き腫らして赤くなった母さんの目は、鋭くつりあがっていた。
何を、言えばいい?
何を言っても、言い訳になる気がした。
『誠一郎がスキーを続けなければ……雪山に行かなければ、こんなことにはなれなかったのよ!?』
『あの時、ちゃんと引き留めていたらよかったんだ。誠一郎は放っておいても直に帰ってくるから、と』
じんじん、じんじん、右頬が痺れる。
俺は父さんと母さんに怒られているんじゃなく、非難されているんだと理解したのは、右頬の痛みが弱まってからだった。



