んなわけ、ねぇ。
そんなこと、あるわけねぇよ。
根拠のない否定を頭の中で繰り返し、千果を見つめる。
千果の蒼白な顔が、最悪な想像を反すうさせた。
『ち、千果』
スキーグローブを雪崩に取られた、温度のない手で、千果の頬に触れた。
ひんやりとした冷たさが、手のひらに伝わる。
ほ、本当に、千果は……。
『嫌だ……嫌だ嫌だ!!』
俺は泣きべそをかきながら、千果の頬をぺちぺち叩いた。
どうしようもなく恐ろしくて、『千果』と発しているつもりの声は喉につっかえていた。
千果。なあ、千果。
これからはなんでも千果のお願いを聞いてやるから。
みっともない嫉妬はやめて、いい兄貴になるから。
だから、頼むよ。
『起きてくれ……っ』



