守らなくていい。
こんな時くらい、突き放せよ。
しかし、千果は決して俺を抱きしめる腕を緩めなかった。
その細い腕は、わずかに震えていた。
急激に崩れ落ちていく雪に巻き込まれ、冷たさと痛みと苦しさが一緒くたに俺と千果を蝕んでいく。
真っ暗な雪が重くのしかかり、体を軋ませる。
スキーウェアの防寒は役に立たなくて、体温が奪われていった。
唯一の温もりは、俺と千果のお互いだけだった。
いつの間にか、意識を手放していた。
どれくらい経っただろう。
ピキリ、と利き腕である右腕に苦痛が走ったのをきっかけに、意識が戻った。
雪崩はとうに静まっていて、動く気配もあの重厚な音もしない。



