番犬男子





逃げなきゃ。


そう、思うのに。



足がすくんで、動けない。



なんでこんな時に限って、身体は言うことを聞かねぇんだよ!


無意味な焦燥が、俺の心臓を鷲掴む。



暗転した状況に戦【オノノ】いている間にも、雪崩は着実に俺たちとの距離をなくしていく。


あっという間に、こんなすぐ近くまで。



逃げたい。

逃げられない。


死にたくない。




『――お兄ちゃん!』



魔の手に喰われる直前、千果の叫び声が鼓膜をつんざいた。


硬直する俺を守るように、千果が覆いかぶさる。



と同時に、狂猛な雪崩が、俺と千果に襲いかかった。




『っ!!』


『千果……!』



雪崩に隠れていた巨大な岩が、千果の背中に衝突し、そのまま俺と共に地面に倒れた。


俺をかばった千果は、俺の代わりに激痛に耐えていた。



大丈夫なんかじゃないだろ?