番犬男子






『俺はスキーするからっ!』


『あっ、おい!誠一郎!』



父さんの引き止める声が聞こえなかったフリをして、奥のほうに滑っていった。



俺がどんな思いをしてるかも知らずに、父さんと母さんは千果ばっか大切にしてムカつくんだよ。


1回くらい、自分勝手な息子に困ればいいんだ。



俯いていた顔を上げる。

ちょうど視界に入ったのは、スキー場と繋がっている雪山だった。



『そうだ!』



あの雪山のどっかに隠れよう。


いつまで経っても帰ってこない俺に、父さんと母さんが慌てる姿を想像して、ニヤリと笑う。



心配されたかった。


俺だってちゃんと愛されてるんだって、確かめたかったんだ。




この幼いイタズラ心が、後に凄惨な悲劇を連れてくるとは知る由もなく、俺は早速雪山の中に入っていった。