『なんでおれをおこるんだよ!!かあさんのばーか!ちかなんかきらいだ!』
母さんと千果に悪口を吐いた俺は、仕事から帰ってきた父さんにみっちり説教されて、強制的に謝罪させられた。
おれのせいじゃないのに、とこっそり愚痴ったら、父さんに頭を殴られた。
その日断ったのは、やっぱり単なる気分だった。
だけど怒られたことが悔しくて、千果のお願いを聞いてあげる回数がさらに激減していった。
千果が幼稚園に入園する頃になると、俺に毎日言い寄っては来ても、お願いはしなくなっていた。
誰も読み聞かせなくても、千果は1人で本を読み、内容を理解した。
絵本から父さんの書斎の本、新聞まで、家中のありとあらゆる書物を読破していて。
さらにはテレビにも興味を持ち、アニメはもちろん、ニュース番組も進んで見ていた。
次第に、膨大な知識が小さな脳に収められていった。
気づいた時には、もう、遅かった。
元々、才能はあったのだろう。
お絵描きをしていると思っていた紙に、千果が中学校で習うはずの数学の公式をクレヨンで書いていて、母さんと父さんは驚いた。
もちろん、俺も。
『千果は、天才だな』
『そうね。将来が楽しみだわ』
父さんと母さんの誇らしげな声が、俺の兄としてのプライドに亀裂を入れた。



